< アンケート企画部屋 < 01 02 03 < TOP |
アンケート企画 4位「ギャグ」でスクツナ スプレーウィット 前編 04 |
2009.6.8 |
二言・三言、言葉を交わして直ぐに、スクアーロは違和感に気が付いた。 声が違う。 雰囲気が、話し方が違う。 電話向こうの小娘が、やけに大人しい。 スクアーロは見えない相手の様子を探るように、尖った双眸を眇めた。 「う゛お゛ぉい、お前ぇ……あの小娘と違うな? 何者だぁ」 その低い声に、電話の向こうの空気が緊張したのがわかった。 観念したのか、否、元から後ろめたい気持ちでもあったのかもしれない。 相手は直ぐに自身の正体を明かした。 電話の相手は、サワダツナヨシと、名乗った。 あの少女の同級生で、彼女に電話番を任されたのだ と、言う。 勝気で自信に溢れていた少女と違い、“サワダツナヨシ”の受け答えはおどおどとして、一時はスクアーロの苛々を煽った。 しかし、その控えめで落ち着いた声は、自己主張の激しかった少女と違い、日常の喧騒と仕事に荒んだ男の耳に優しく響いた。 不思議と、気持ちが和いでいく。 スクアーロは“サワダツナヨシ”が、彼女の身代わりをすることになった事の顛末を大人しく聞くことにした。 そして、それを一通り聞いて、脱力したようにソファに深く背中を預ける。 『あの、もしもし? 聞いてます? 騙すつもりは―――ああ、いや、本当に、すいませんでした』 「はぁ……ああ、つまり、そうか。あの小娘は他の男とヨロシクやってんだなぁ?」 視界を塞いだ長い前髪を掻き上げたスクアーロは、そのまま天井を仰いで苦笑を浮かべた。 『お、怒り ます か?』 「んん? ああ……それはねぇ、安心しろぉ」 ―――それにしても、心地よい話し方をする スクアーロは、心身ともに寛いでいる自分に気が付き、密かに驚いていた。 「あの小娘に未練があったわけじゃねぇ。むしろ関係を切る手間が省けたってもんだぜぇ」 『? ……ぇえと、スクアーロさん でしたよね。あの、彼女も三日くらいしたら戻るみたいなんで、学校で会ったら、電話をするように伝えますよ』 「ん゛あ? ぁあ、ああ、そんなもん必要ねぇぞぉ。お前は気にすんな」 『でも彼女、おじさんの事 気にしてましたよ』 「知ったことか て、お゛ィ待て。誰がオジサンだ!? オレぁ、まだそんな歳じゃねぇぞおお!」 スクアーロは思わず立ち上がり、唾を飛ばして怒鳴り散らした。 目尻を痙攣させながら携帯電話を持つ手を震わせる。 その憤りは電話の向こうにも伝わったらしい。 裏返った悲鳴と共に携帯電話を取り落としたらしい騒々しい雑音がスクアーロの鼓膜を打った。 途端、怖がらせてしまったことへの罪悪感が胸に芽生えた男は、それに戸惑った。 そして、それを誤魔化そうと、ぶちぶちと悪態を連ねる。 『ああ、すいません、そうですか。そ、そういえば声も、うるさ……わ、若々しいですよねぇ』 「うるさくて、悪かったなぁあっ」 不機嫌に返したものの、スクアーロは電話向こうの声の主に興味を持ち始めていた。 “サワダツナヨシ”は、今まで、スクアーロの周りにはいなかった種類の人間だったのだ。 その後、スクアーロが上司と同僚の愚痴と、並盛町の観光名所の話などでズルズルと会話を引っ張り、終にネタも切れてきた頃、“サワダツナヨシ”が、空笑いの後 『それじゃ、これで』 と、通話を切ろうとした。 しかし その瞬間、スクアーロは咄嗟に叫んだ。 「ちょっ 切るなっ、待てぇえええええっっ!!!」 『―――はっ、はいぃ?』 怪訝な声が返ってきたが、スクアーロはとりあえず胸を押さえて安堵の息をついた。 しかし、呼び止めては見たものの、スクアーロは二の句が告げずに空気を噛む。 何のために、呼び止めたのか。 わからない。 スクアーロは、部屋の中を端から端までウロウロと歩き回った。 電話の向こうの相手の沈黙に、焦りが募る一方だ。 握り締めた掌に汗が滲んでいるのを上着で拭いながら、スクアーロは唾を呑み込んだ。 どうやら、緊張しているらしい と、自覚する。 『あの、スクアーロ さん?』 「あ、あのな!! その、おまえ、お前よぉっもしかして日曜日に何か特別な予定でもある か? 時間が、空いてるなら一度 その……オレと、会ってみねぇかぁあ」 もごもごと煮え切らない言葉を並べたスクアーロは、その直後、唐突に顔から火を吹いた。 ―――我ながら、陳腐な誘い文句だ。 スクアーロは、赤く染まった顔を壁に打ち付けて呻いた。 今日日の小学生だって、軽妙な台詞を吐くというのに。 壁に額を押し付けたまま、スクアーロはワナワナと肩を震わせた。 『は、はぁ 日曜日? アハハッ、たぶん部屋でゲームするだけかな と思います。けど。でも、なんで』 「ゴチャゴチャうるっせぇえぞぉおおっ!! オレと会うのか、会わねぇのかっ!? 会うって言わなきゃ叩っ切るぞおおおおっ!!」 『ナニそれぇえええ!!?』 気になるアノコの絶叫が、スクアーロの鼓膜に大きく反響した。 |
< アンケート企画部屋 < 01 02 03 < TOP |