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アンケート企画 4位「ギャグ」でスクツナ スプレーウィット 前編 03 |
2009.6.8 |
彼女から頼まれた用件は、一見すると容易いことだった。 要は、電話番。 彼女は明日から三日ほど学校を休み、社会人の彼氏と旅行に行くそうだ。 その間、最近になって連絡を取り合うようになった彼女の“おじ様”から電話が掛かってくるから、彼女に成り済まして電話の対応をして欲しい。 ―――と、いうものだった。 「そんな、無茶な」 母親に似て柔和で中性的な面差しをしてはいるが、綱吉はれっきとした男子高校生だ。 声だって野太いわけではないが、彼女と比べれば低い。 電話でのやり取りだけとはいえ、異性の代役など務まるはずも無い。 すぐに正体がばれるに決まっている。 綱吉は苦笑いして断ろうとしたが、彼女は不適な笑みを浮かべて綱吉の言葉を遮った。 「問題ないわ。私が、あの金ズル―――“おじ様”と会って話したのは1回きりだし。だから声なんて、風邪でもひいたとか適当に誤魔化すことができるわよ」 「だから問題ないって? でも、オレが言うのもなんだけど、他の女友達に頼んだ方が良いと思うよ」 「これはアンタにしか頼めないことなの! 他の女友達に任せたら、せっかくの金ズルを寝取られ―――じゃ なくて、私のおじ様に手を出すかもしれないでしょっ!? “おじ様”は無愛想なヒトだけど、イイ男だから心配なのよねっ」 「……ぇえと、よく分からないんだけどさ」 「いやぁね、小さいことは気にしないでよ。とにかく、 “おじ様”から電話が掛かって来たら、ご機嫌を損ねないように愛想良くお話に付き合ってくれたらいいだけよ! 直接、顔を合わせる必要は無いんだから簡単でしょ」 「いや、でも……」 「ああっ助かるわ〜! じゃあ沢田、コレ お願いね!」 元々、人からの頼みごとをハッキリ断れない性質であったのが災いした。 綱吉は結局、携帯電話を押し付けられ、電話番をすることになったのだ。 あれから、真っ直ぐに家路に着いた綱吉は、ベッドに腰掛けて鞄の中から携帯電話を取り出した。 彼女から押し付けられた―――……預かった、携帯電話だ。 手に馴染まないそれを、壊れ物を扱うように慎重な所作で掌に乗せてディスプレイを開く。 明るい液晶画面を眺めて溜息を落とした所で、唐突に、着信を知らせるメロディが鳴り出した。 * * * スクアーロは憂鬱な表情で手の中の携帯電話を眺めていた。 そのディスプレイ画面には、新しく登録されたばかりの電話番号と名前が表示されてある。 「……面倒だが、電話するって約束だしなぁ」 スクアーロは苦々しい表情で呟くと、通話呼び出しの電音に耳を傾けた。 彼は あの日、テレクラに入ったことを後悔していた。 個室のソファに腰を落ち着け、下着の中で窮屈な思いをしていた我が分身を取り出したところで、備え付けられていた電話の電鈴が鳴ったのだ。 そもそも、勃起したナニをスッキリさせるべく入った店、電話で相手を探していたわけではなかったのだから、無視したら良かった。 しかし、イタリアにある本部から日を空けず掛かってくる電話を取る日々が続いていたスクアーロは、反射的に受話器を持ち上げていたのだ。 もちろん、電話を掛けてきたのは無愛想な上司ではなく、煩く構ってくるオカマでもなかった。 歳若い、オンナだった。 仕方無しにポツポツと話を続け、これから待ち合わせて会おうということになったのは想定外の事だったが、とりあえず会ってみて、あと腐れなく楽しむことが出来るなら、それも良いかと思って承諾した。 しかして、待ち合わせ場所に現れたのは、手足のすらりとした十代の小娘だった。 服にも化粧にも一切の隙は見られず、男の扱いにも手慣れた風で、床でもそれなりに楽しめそうだったが、相手は少女。 肢体も色香も成熟したオンナを求めていたスクアーロの期待は、あっさりと裏切られた。 結局その日は、はしゃぐ少女が欲しがるものを適当に買い与えただけで終った。 ただ、別れ際に、再び連絡して欲しいと少女に強請られたのを、スクアーロは強引に約束させられてしまったのだ。 ―――テレクラ店に入った事が、そもそもの間違いだった と、男は振り返る。 どっぷりと溜息を吐き出したところで、電話の向こうから消え入るような細い声が聞こえた。 「あ゛―――、オレだぁあ」 スクアーロは覚悟を決めたように携帯電話を握りなおした。 |
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